レクイエム 1 音楽か哲学か - ヴァイオリンを捨てたギリシア哲学研究者 -
青春時代、ヴァイオリンか哲学かの選択で懊悩し、結局哲学の方を選んだひとりの研究者が昨年暮れに亡くなっていた。
縁あって、その方も所属する大学の研究室に嘱託の研究員として2年間在籍し、短い間ではあったが親しく接する機会を得たことに、いま改めて感謝したい。
学報のバックナンバーの「音楽と私」と題する短いエッセイに目が留まり、ざっくばらんに質問してみたことがあった。ヴァイオリニストにもハイフェッツにシゲティ、フランチェスカッティといろいろなタイプがありますが、先生はどのような演奏家がお好きですかと。
かえってきた答えは意外にもダヴィッド・オイストラフだった。柔らかな物腰、垢抜けした容貌と人間としての気品などから、フランチェスカッティ辺りの名が挙がるものと思っていた。「オイストラフは、息子のイーゴリもいますが、私は父親のダヴィッドの方が好きです」と答えられたにこやかな笑顔が今も脳裏に焼き付く。ただただ懐かしくもう一度お会いしたい。
M先生(1935.8.6 - 2011.12.16)
M先生の水茎 (1993年8月22日消印)
コメント